IndeX >>> Vampire Love



 T.Vampire Love <3>



 今は五月ももう半ば。
 中学程じゃないにしても、やはり高校もそれなりに行事がある。
 例えばそれが運動会。
 大体の学校では秋季に行われるであろうそれは、うちの場合、春季に行われる。
 気候的には問題ないし良いんだけど、まだクラスのメンバーの能力をつかみきれない一年生にとってはこの種目分けが中々難しい。
 足の早さなんかは新学期の最初の方であったスポーツテストで個人のタイムがばれてるから、クラス上位にうっかり入ってしまった私は否応なくリレーの選手に入らされた。
 中学時代は陸上部だったから、走るのは嫌いじゃないし、むしろ好きだから良いんだけど。
 ただ、うちのクラスはお祭り好きが多いらしく、応援グッズなんかも作ってかなり力が入ってる。
 担任の川西先生が優勝したらジュース奢ってくれるとかで煽ったのもあるんだろうと思う。
 …いや、運動会のことは楽しくなりそうだし、そのことはいいのよ。
 そんなことより最近気になることがある。
 なんか、妙に人に見られてる気がする、それも女子に。
 決まって私と碓氷くんが話してるとき。
 最初は気のせいかと思ってたけど、これだけ続けば気のせいでも偶然でもないと思うんだよね。
 たぶん、最初はあの三井くんに呼び出された翌日学校いったときかな。
 連れ出されたの見られてるからまたなんか聞かれるの嫌だなって思ってたんだけど、みんなが聞いてきたのはそんなことじゃなかった。
 碓氷くんとの関係を根掘り歯掘り聞かれたのよ。
 何でみんながそんな事聞いてくるのかわからずにいると、雪野がこそっと教えてくれた。
 三井くんに連れてかれた私を碓氷くんはクラスで聞いてすぐ探しに飛び出してくれたらしい。
 騒いでるのは女の子ばっかりだから、当人の碓氷くんが来たら皆ぴたっとその話は止めてたけど。
 皆は碓氷くんと私が付き合ってるって勘違いしてるみたい。
 碓氷くん、親切だからきっと三井くんがどんな人だったか知ってるか聞いたかして助けに来てくれたんだと思うんだけどなぁ。

「日向、聞いたわよ〜?」
 リビングでテレビを見ながら寛いでると、買い物帰りのお母さんがそれはもう嬉しそうに近寄ってきた。
「な、何…」
 その笑みがなんか異様に見えて思わず私は引いてしまう。
 わが母親ながらこういう時のこの人の口から出ることってロクなこと無いのよね。
「なんか、同じ学校の制服着た男の子に送ってきてもらってたらしいじゃないー?」
「ごほっ、な、んでそれを…」
 思わず肯定してしまってからまずいと気が付くけど後の祭り。
 見られた訳じゃないならいくらでもいい訳出来てたのに!
「近所の奥さんに聞いたのよぅ」
 うわ、お母さんかなり楽しそう…やばい…
「で、誰よ!?彼氏!?」
 逃がさないと云わんばかりに隣に座って詰め寄ってくる。
「ち、違う違うっ、同じクラスなだけっ、遅くなったから送ってくれたのっ」
「ふぅ〜ん?」
 嘘付いてないんだけど…何その目…
「そうゆう事にしといて上げましょうかねぇ、さ、お父さん帰ってくるしご飯ご飯っ」
 おほほ、なんて笑いが聞こえてきそうなほどお母さんは機嫌良く買い物袋を持って台所へと消えた。
 それでその話は終わったと思ったんだけど、それは私が甘かったと後で後悔する。
 ご飯の支度が丁度出来たくらいでお父さんが帰ってきた。
 毎日時間ぴったりで用意するお母さんって凄いと思うけど、これはお父さんが毎日帰る時間を携帯からメールしてくるから。
 よく毎日続くなぁと半ば呆れてしまうくらい、携帯を持ち出して以降ずっと続いてる。
 家庭円満の印と思えば良いこと何だろうけど。
 うちは父と母と、後お兄ちゃんがいるんだけど、バスケの推薦で他県の大学に行ってるから今は家にはいない。
 だから、お父さんが揃えばうちは夕食になる。
 お父さんは寝る前にお風呂が好きな人だから、スーツから着替えてきたらもうご飯だ。
「いただきまーす」
 小さい頃からの癖でついつい今でもこれは云っちゃう。良い習慣だと思ってるから変える気はないのだけど。
 ご飯を食べ始めてしばらくして、お母さんが思い出したように爆弾を投下した。
「日向ったらね、先週男の子に送ってもらってきたらしいのよ」
「「ごほっ」」
 私とお父さんのムセが重なった。
「お母さんっ!」
 まだ続けるのかとお母さんを軽く睨むけど、そんなの全然効いた風もなく、お母さんはしてやったりと笑い顔。
 お父さんなんか複雑そうな顔でこっち見てるし、もうっ。
「つ、付き合ってるのか?」
 何でお父さんが動揺するのか分からないけど、即座に否定する。
 お父さんは明らかに安心して、お母さんは舌打ちした。あなたたちいくつよ、一体。
「もう、ただのクラスメイトだって何回云ったら分かるのよっ」
「え〜だってお母さんとお父さん、日向の年にはもう出会ってたわよ?」
 ねえ、なんてお母さんが云うとお父さんはコホッと咳払いしてご飯を食べすすめる。
 あなたたちは幼なじみだったでしょうが…
 これを云うとお母さんの惚気話に移行しちゃうから口には出さない。
「でも、その子、かなりの美形なんでしょ?お母さん見たかったわぁ」
 それが本音ね…お母さん若くてかっこいい子好きだもんね。今だにジャニーズ好きみたいだし。きっと碓氷くんなんかみたら騒ぎ出すに決まってるわ。
 それにしても、近所の奥さん、そこまで見てるなんて…偶然(だよね?)とは云えちょっと恐い。
「ハーフっぽい子って聞いたわよ。なんかお母さんそれ聞いて昔近所に住んでいた子思い出したのよね」
 うん?そんな子居たっけ?
 記憶を手繰って見るけど、私にはそんな子の記憶はなかった。 
「そんな子居たか?」
 お父さんも記憶にないらしい。
「あら、居たわよ?確か名前は…やだ、忘れちゃったみたい。なんせ日向が6つの時くらいだから10年も前なのよねぇ」
 しみじみとお母さんが一人で頷いてる。
 6才かぁ…幼稚園くらい?
「記憶にないがなぁ」
「あなたは昼間お仕事してるから当然よ」
 話がその子のことに移って難を逃れたから、これ幸いと私はそれ以上口は出さなかった。
 次第に会話も次へとまた移ってその男の子のことは結局思い出せず終いになったけど、私自身も大して気に止めはしなかった。



 最近、高校のペースにも慣れて来て朝もわりと起きられるようになってきて、遅刻の回数も減った。
 とは云っても起きるのが少し早くなっただけなんだけどね。でも余裕が出来ただけ私としては表彰ものだと思う。それにしても地元に高校があって本当によかった。
「おはよう」
 後ろから声を掛けられ、振り替えると、思った通り声の主は碓氷くんだった。
「お、おはよう」
 大分慣れたとは云え、私は碓氷くんが最初苦手だったわけで、最初に感じたその苦手意識は私のなかにまだ残っている。
 苦手と云うよりは心が騒つくと云った方がいいのかもしれない。
 例え様がないんだけれども…
 それにしても、今日も朝から碓氷くんは目立ってる。
 クラスが一緒なんだから、校門前で会ったら当然クラスまで一緒に行くために並んで歩くことになる。
 また隣にいるのが私なものだから、まわりの子の視線も痛い。
 碓氷くんには悪いけど、朝からこれは少々辛いぞ。慣れたけどさ。
「あれ、碓氷くん、体調悪い?大丈夫?」
 横目で彼を見ていた私は、ついつい話し掛けてしまった。
「え…何で」
 何でって…
「顔色悪いから…」
 いつも白い肌が白を通り越してちょっと青い気がする。
「…朝はちょっと弱いんだ」
 控えめな笑みさえも、碓氷くんがすると薄幸そうに見えてはまるなぁ。
「そっか、調子悪いようなら保健室行ったほうが良いよ」
 特別私は気にせずに彼に声を掛けてそう云った。
 一限目途中、碓氷くんは案の定、体調不良で保健室に行くことになる。
 それがあまりにも体調が悪そうで、心配した先生が隣の席の私に付き添うよう頼んできた。
 何人かの女子は自分が行きたそうな顔をしてたけど、今の彼にそれは酷だし、私も心配になってすぐに頷いて教室を出た。
「…ごめんね、でも、大丈夫だから教室帰っていいよ…」
「碓氷くん、それはそんな顔色した人が云う台詞じゃないよ」
 ふらつくのか、碓氷くんは血の気のない顔色で額を押さえ、時折壁にもたれながら歩いていた。
 私は女で力もないから少しくらいしか支えられないけど、肩を貸すという申し出を何故か碓氷くんはひどく拒んだ。
 半ば無理矢理くっつくように保健室に連れていき寝かす。
 不運にも保健の先生は外出中らしく、そう書かれたプレートがドアにかかっていた。
 ひどく具合の悪そうな彼を一人で残すわけにもいかないから、ひとまず授業も残り10分でなんとでもいいわけはたつだろうと、私は残ることにした。
 だが、残ると決めた私を碓氷くんは大丈夫だからと教室に帰そうとする。
 そんな彼に余計に意地になって私は残ると居座った。
 一先ずベッドに寝かせたから、体温でもと棚を漁ってみる。机の上を見るとタイミング悪く、電池の切れた体温計があった。
「もう…」
 どこかには予備くらいあるだろうと探してみるがそれが中々見つからない。
 色々と引き出しを開いて、棚を探して。少し離れてから眺め、棚の上の方でやっと真新しい箱のそれらしいものを捜し出した。
 そこまで身長がないから手探りで取るしかない。
「んー、あとちょっと…」
 少し無理をして爪先立ちして、取ろうとすると、不運にも雪崩のように他のものまで落ちてきた。
 どうやら、棚の上の方にはものが散乱していたらしく、埃の被った本なんかも一緒に来る。
「もう〜最悪〜」
 堪らず喚くと、何事かと碓氷くんがこっちを見ていた。
「大丈夫…?」
「だっ、大丈夫!だから寝てて!」
 心配して起きてきそうな碓氷くんを押し止めて、慌てて散乱した本とかに手を伸ばす。
「っ…」
 指先にピリッとした痛みを感じた。
 どうやら紙で切ってしまったらしい。
 思わず手を引いて確かめると、薄く切り傷が出来ていて、そこからじわっと赤い血が滲みだしていた。
 紙の切り傷は痛みが出てくるから、早めに絆創膏で保護しておいた方がいい。
 そう思って絆創膏を取ろうと立ち上がると、いつのまにかそこに碓氷くんが立っていた。
「ちょっと、碓氷くん、寝てないとだ…め…え?」
 碓氷くんの様子はいつもと違っていて、無表情に私の指を見ていた。
 いきなり、碓氷くんの手がすっと伸びて私の手に伸び、傷に口付けた。
 びくっと口付けられた瞬間に体は震えたけど、何故か私は体を動かして拒むことも引くことも出来ずにいた。
 彼の舌先が指を舐めている。
 そう意識しただけで体中の血液がそこに集中したようだった。
 たった少しの時間の出来事なのかもしれない。
 でも私には異様なほど長く感じた。
 体は魔法にかかったように動いてはくれない。
「う、碓氷くん…?」
 やっとのことで言葉を吐き出すと、彼ははっとしてそこから離れた。
 同時に解放された指先を握るように胸に押しつける。
 お互いの目が合った。
 動揺しているのか碓氷くんの目は揺れていた。
「あの…」
 ふと、碓氷くんが先に口を開きかけた。
 だが、そこにタイミング悪くドアが開かれる音が入る。
「あら、誰か来てたの?」
 保健室の先生が帰ってきたのだ。
 先生は二人を交互に見て首を傾げた。
「す、すいません、碓氷くん…彼が体調悪いようだったので連れてきました…私はこれで失礼しますっ」
 何か云われる前に私は保健室を飛び出した。
 碓氷くんの顔など今の私には当然見る勇気もなかった。