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彼女の難題 <2>



 先輩との放課後の勉強会が始まって今日はもう金曜日。1週間経とうとしている。
 最初はどうせまじめに教えてはくれはしないと疑っていたものの、いざ始まると、思った以上に先輩はまじめに教えてくれた。
 それで、皆に頭がいいと云われているのも頷けた。
 だって、本当に教え方は上手なんだもん。お馬鹿な私にも分かるように説明してくれるしさ。
 うちの数学の先生より教えかたは上手いんじゃないかな。
 ただ、問題はあるんだけど…
「志保」
「うう…」
 このやり取りももう何度目だろう…
 毎日繰り返されるこれは、決まって私が問題に詰まったときだ。
 教え方は上手なんだけど、先輩はスパルタだ。容赦ない。
 1度目はすっごい丁寧に教えてくれるし、2度目も普通に教えてくれるんだけど、3度目はいつもこうだ。
 仏の顔も3度までっていうけど、先輩の顔は2度までしかもたないらしい。
 視線はノートに落としたまま動けない。
 だって、今となり見たら絶対後悔するもん。
 きっと、とびっきりの笑顔で笑って待ってるんだ、表面上は。
 でも、その笑顔が怖いのよー!
「くすくす、黒崎君、志保ちゃんが可哀想よ?」
 私と会長のこの掛け合いをしばらく見守っていた日高先輩が仲裁に入ってくれた。
 日高先輩は生徒会メンバーで書記をしている2年生の女性の先輩だ。
 私がこの生徒会室にお邪魔するようになってから、ちょくちょく会うようになった。
 ちなみに、すっごい美人で、この生徒会は顔がないと入れないんじゃないかって思うくらい。
「丁度お茶も入ったし、如何かしら?」
 先輩のこの優しい提案に、私はぴくっと反応してしまう。
 ここの生徒会室にはキッチンがついていて、給湯も出来る。
 そこにはすごい数の紅茶やらコーヒーが用意されていて、最初見せてもらったとき驚いた。
 それに加え、日高先輩は実家が喫茶店やってるらしくて、煎れるのがすっごい上手。
 紅茶党の私にとって、先輩の煎れるお茶を飲めるのは最高の贅沢だと思う。
「か、会長、ちょっと休憩しません…?」
 だから、どうしても淹れたてを飲みたくて、私はおそるおそる会長の顔色を伺ってみる。
 言葉に出さなくても、顔が云ってるのが分かる、「まだ始まって少ししかたってないけど」って。
 だからその笑顔が怖いんだってば!
「終わったら絶対しますから!」
 必死でそう泣き付くと、会長はくすっと笑ってぽんっと私の頭を叩いた。
「分かった分かった、休憩しよう」
「本当ですか!?やった。日高先輩、私運ぶの手伝います!」
 自分でも現金な奴だと思うけど、私は犬よろしく日高先輩の後ろについていく。
 お茶請けのおやつがこれまた先輩の手作りクッキーと知ってなおご機嫌だ。
 先日頂いた手作りのガトーショコラも最高だった。
 中々あのしっとり感だすのって難しいんだけど、先輩の作るガトーショコラはその辺りのケーキ屋さんのよりおいしかった。
「今からお茶?いいところに来たみたいだね」
 ガチャっと扉をあけて姿を見せたのは云わずと知れた高屋先輩。
「あら、タイミングいいわねぇ」
 そう云いながら日高先輩が高屋先輩の分のカップも出して来て、お茶を注ぎ始める。
 今日の茶葉はアールグレイだ。
「ありがと」
 目の前に置かれたカップを少し持ち上げて高屋先輩が口をつけた。
「志保、何みてるんだ?」
 いきなり視界が黒くなる。
 どうやら終始高屋先輩をみていたのが会長にばれていたらしく、視界を遮られた。
「や、止めてください〜」
 慌てて会長の大きな手を払い除けるけど、簡単には剥がされてくれなかった。
 一生懸命もがいて、やっとのコトで得た視界の眩しい事。
「ちょっと見てただけじゃないですか」
「だから何で蒼を見るのかな」
「高屋先輩何してもはまっていて格好いいからつい」
 素直な感想をのべると、途端に会長は笑顔を増した。
 反対に日高先輩と高屋先輩は顔を見合わせて笑いだしちゃうし。
 な、何で!
「志保の彼氏は誰かな?」
「か、会長…?」
「何で疑問符なのかな?」
 突っ込み厳しいですよ、な、なんで?
「ご、ごめんなさい」
 こういうときはあやまっとこう。これも処世術の一つよ。
 謝るのはいくら謝ってもタダだもん。後で何かされるより謝っといたほうが得策だ。
「何を悪いと思って謝ってるのかな」
 見透かされてます!?
「くす。あのね志保ちゃん、拓也は嫉妬焼いてるんだよ」
「…はい?」
 あわあわとパニくっている私に助け船を出してくれたのは高屋先輩だ。
 でも、その嫉妬って…なんででしょう…
「志保ちゃんだめよ〜?黒崎くん、かなり独占欲強いみたいだからあんまり他の人誉めるといじめられちゃうわよ」
 えと、では、会長はさっきの私の先輩カッコイイ発言に嫉妬焼いてると?
 まさか冗談ですよねという目で会長を見ると、やっぱり目が笑ってないんですけど!
「じゃ、俺もそろそろ帰ろうかな」
「え!?」
「ごめんね、俺も勉強教えてあげる約束してる子がいるんだ」
 ああ、いいな…私も高屋先輩みたいな優しい人に教わりたい…
 そんなこと、口が裂けても云えないけど…
「それじゃあ、私もこれ片付けてお邪魔するわ」
「えっ、日高先輩もですか!?」
「あんまりお邪魔するとわるいから」
 いえ、むしろ邪魔してください。いっぱいして下さい。盛大にしてください。
 二人とも今この状況で私と会長残してかえるんですか…
 私は笑顔で手を振ってさっさと帰っていく二人の後ろ姿に念を送ってみるけど、あっけなく二人とも去っていった。
 最後の扉の閉まる音に、私は引導を渡された気さえする。
 そこで居た堪れなくなって、恐る恐る魔王様(会長)を見ると、笑ってなくて、むしろ怒ってるみたいな顔に変わっていたからまた心臓に悪い。
「はぁ…」
 わざとらしく見られたあと、ため息付かれて条件反射のように身構えてしまう。
「な、なんですか…」
「いーや、別に」
「別にって…さっきの高屋先輩を格好いいっていったことに怒ってるんですか…?それなら別に他意はないですし…」
 しどろもどろにいいわけしてみる。
 本当に他意はなかったのよ、分かってほしいです…
「じゃあ俺は?」
「はい?」
「俺のことはどう思う?」
 こ、これは…まさか…言わせる気ですか…?
「なんのことでしょう…?」
 一先ず逃げてみようと試みるけど、それが適うはずもなく、笑顔で返されれば私は何も云えなくなる。
「ちゃんと答えるまで帰さないから」
 悪魔の笑みでそんな恐い宣言を下さった会長は、宣言どおり結局答えるまで離してはくれなかった…
 しかも、その後に今日の分の勉強はしっかり教えられたから、結局帰宅し始めたのは8時過ぎ。
 本来だったらとっくに学校から出ないといけない時間だけど、会長権限でそれも許されるらしい。
 結局、律儀に会長は今日も家まで送ってくれる。
 私の家から会長の家までしばらく歩かないといけないから、申し訳ないって断ってるんだけど、それは絶対了承して貰えなかった。むしろ睨まれた。怖かった。
 せめて自転車にしてはどうですかと提案すると、帰り、少しでも一緒にいたいからと臆面もなく却下され、逆に恥ずかしさと照れでそれについては何も云えなかったから、結局歩きで現在に至る。
 私自身、こうやって歩くのも嫌いじゃないし、なんだかんだと会長と話すのも嫌じゃない。
 さっきは無理矢理言わされたけど、実際、会長ってカッコイイと思う。
 私が生徒会室で勉強で御世話になってから、横でたまに見る生徒会長の顔してるときとか、いつもの邪悪さがなくって、あれなら皆が騙されてても頷ける。
 勉強教えてくれてるときの顔とかも嫌いじゃない。
「それで、志保、明日なんだけど」
 ぼーっと会長考察で見入っていると、突然声をかけられた。
 見てたなんてばれたくなかったから、慌てて返事する。
「は、はい?」
「うちで勉強する?」
 はい…?今なんて…?
「だから、土曜だし、学校はしまってるから、どうするかって」
「いえ、あの、明日も教えてくれるんですか?」
「教えるって云ったからにはちゃんと面倒見るよ。正直今の志保だと、来週になったら今週の分忘れてそうで怖いし」
 うわー、会長、それ当たってるよ。
「でも、別に勉強なら前みたいに図書館でいいじゃないですか」
「嫌だ、人がいる」
 いや、貴方こないだ別に人に見られてもいいとかってべたべたしてきてませんでしたっけ。
「はあ…でも、会長の家ですか…?お邪魔になりませんかねぇ」
「大丈夫だよ」
「そうですか?じゃあ、よろしくお願いします」
「うん、じゃあ、10時に迎えに来るよ、昼もうちで取ればいいから。じゃあ、また明日。」
 そのときの私は、後になって思うけど、本当にあっさり返事をしてしまっていた。
 手を振って、去っていく会長に同じように手を振り替えす余裕もあった。玄関に入るときまでは。
 そっかー、会長の家かぁ…い、家!? 家に行くってことは、二人っきり?密室!?
 そう考えてももう時すでに遅し。
 それに気づいてしまってから、私は終始一人で慌てしまって、ご飯中も家族からは不振な目で見られるし、夜は眠れないしで、散々だった。