さっきまで黒いジーンズに白い柄物のシャツっていうラフな格好だったんだけど、今はお洒落な黒いジャケットを羽織ってる。
それがすっごく似合ってて、やっぱり蒼くんは格好良いんだって再認識しちゃう。
「今晩は、お姫さまのお迎えに上がりました」
蒼くんがちょっとおどけてそんなこと云うものだから思わず顔が火照っちゃう。
普通の人が云ったら歯が浮くような台詞でも、蒼くんがいうと妙にはまる。
「こ、こんばんは」
緊張と照れでつまりそう。それに、さっき会ってるから変な感じだ。
「くすくす、じゃあどうぞ」
蒼くんがそう云って促した先には黒い車があった。
私は車は詳しくないから車種とかについてはよく分かんないけど、それは叔父さんの車だと思う。
「蒼くん免許持ってるの?」
「持ってないと乗れないでしょ?」
「そういう意味じゃなくて…もう、蒼くんの意地悪」
ちょっと恨みがましく見ると、蒼くんは笑いながらゴメンと謝ってきた。悪いと思ってないしぃ。
「最近とったんだよ。3月後半くらいから取り始めたから教習所も混んでるし春休み中には間に合わなかったけど」
「そうなんだ」
「うん、だから最近まで何かと忙しかったんだ」
「そっかぁ、じゃあ免許証獲得おめでとう!」
「くすくす。ありがとう。でも雪、免許証は誰でも取れるよ?」
「それはそうかもしれないけど…」
隣でくすくす笑う蒼くんの反応に私は頬を膨らました。
もちろんからかわれてるだけって分かってるから私だって本気で怒ったりしない。
それに、蒼くんがこうやってからかったりする相手ってそんなにいないから、特別っぽくてちょっとうれしいと思う自分もいる。
「ごめんごめん、お詫びに俺の最初の助手席座らせて上げるからさ」
たぶん、蒼くんはなんともなしに云った台詞だと思うけど、すっごくうれしかったりする。
最初の助手席の相手って大体特別な人を選ぶと思うから、きっと今蒼くんに彼女いないんだ。いたら私なんか座らせて貰えない筈だもんね。
「なんか嬉しそうだね」
「うんっ」
助手席のドアを開けてくれたから、私は思わず「お邪魔します…」と、かしこまって座った。
ちゃんとシートベルトはつける。マナーだもんね。
運転席側に車が若干下がり、蒼くんが同じように乗り込んで、シートベルトをつける。
「じゃあ、行くよ」
ゆっくりと車が発進する。
「雪、恐くないの?」
「え?何が?」
「いや、俺今日が教官以外の人乗せるの初めてなんだけど」
「免許証とれたのなら大丈夫じゃないの?」
自分が車を運転するだなんて想像もつかない私には、まったくと云って良いほど運転に関する知識はない。
みんな結構簡単に運転してるように見えるから、だから運転なんて免許証さえ貰えたら誰でもできると思ってた。
そんな私の返答に蒼くんは笑う。
違うのかな?
「雪、誰でも人選ばずに乗ってたら大変な目に合うよ?」
「はぁい。でも、蒼くんなら大丈夫でしょう?」
そう尋ねて見るけど、蒼くんはそれには答えずに笑ってた。
でも、出発してしばらくたったけど恐い思いもしてないし、とっても安全運転で初めての運転とは思えないよ。
「それより、どこにご飯食べにいくの?」
てっきり近くのファミレスなんかに行くと思ってたんだけど、もう結構走ってる。
「着いてからのお楽しみということで」
むぅ、答えてくれる気ないみたい。
横目でちらっとこっちだけ見て笑ってる。
「まだもう少しかかるから」
「はぁい」
釈然としないけど、一応返事はする。だって今日はただのお供だから。
それに、記憶にある限りでは通ったことない道だから、外眺めてるのも楽しい。
景色とか見たことないもの見るの好きだからついつい見入ってしまう。
「雪、後でいいトコ連れてって上げるね」
「いいトコ?」
「そ、たぶん気に入ると思うよ」
どこだろうって思うけど、きいてもまた教えてくれないんだろうなって思うから聞かないでおくの。
楽しみは後にとっとくものだしね。
それから10分くらい走ったところで目的地に着いたみたいで、車が駐車場に綺麗に入れられた。
シートベルトを外すのにもたついていると、行きと同じように蒼くんがドアを開けてくれた。
「ありがとう…」
なんか、こういう女の子扱いがちょっとくすぐったい。
「ちょっと歩くんだけどね」
そう云って大きなその手を差し出してくれた。
嬉しいんだけど、他の人にもこうなんだろうなって思うと胸がちくってする。
「どう?雪好きだろ、こういう所」
「え?」
蒼くんの問い掛けにはっとして顔をあげると、思わず息を飲む。
「わぁ…」
そのお店はちょっと人里離れた山間部にあって、その雰囲気にとっても合ったカントリー風の可愛い建物だった。
昼間だったらまた違うのかも知れないけど、今は夜だからライトアップされていてとても綺麗。
お店の周りには可愛いお花が植えられていて、春から夏に掛ける今の季節にあった色とりどりのお花が出迎えてくれた。
「くすくす、気に入った?」
見入るようにきょろきょろしていると、蒼くんがその視界に入るように覗き込んできた。
「うんっ、とっても!」
私は素直に返事する。
だって本当に私好みでとっても可愛いんだもん。
「中に入ったらもっと喜ぶと思うよ」
そういわれて、止めていた足を動かせて中に入る。
「うわぁ…」
今日二度目の反応だけど、まずそれしか出なかった。
中もやっぱり外観によく似合った可愛い造りで、木で作られた階段とか、壁に掛かった可愛らしい絵とか、至る所に置かれた動物たちの小物とか、机の上のレースの入った白いテーブルクロスとか、一輪挿しとか!
どこを見ても私の胸を高鳴らせるものばかりだった。
「いらっしゃいませ、ご予約の方でしょうか?」
ウェイトレスらしい30代前半といったくらいの女性が出迎えてくれる。
「はい、予約しておいた高屋です」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
予約なんてしてたんだ?
さすが蒼くん、用意周到だぁ。
促されるままついていくと、一番奥のテーブルに案内された。
窓際で、ガラスを通して見える景色はやっぱり森の中のよう。
「お気に召してもらえましたか?皆様には少々ご不都合おかけしていますが、この景色を壊さないように駐車場を少し離して頂いてるんです」
コトッとお冷やを置きながらウェイトレスさんが説明してくれる。
「はいっ、とっても。どこもすっごく可愛いくてどきどきします」
「ありがとうございます、そう云って頂けて嬉しいです」
素直な感想を洩らすと、ウェイトレスさんは本当に嬉しそうに笑った。
メニューを置いて一端戻っていく。
「さ、雪、好きなの選んで」
まだきょろきょろと辺りを見回す私を蒼くんが笑う。
「あ、はーい」
開いたメニューリストも手書きで、可愛いイラストがいっぱいで、手が込んでいた。
「凄いねー」
はじめにぺらぺらとめくりながらメニューを選ぶ。
「おすすめは季節のコースらしいよ。デザートもあるみたいだし」
前に座った蒼くんが教えてくれる。
「ほんと?じゃあそれにしようかなー」
私は嬉々としてそのメニューを探す。
ふと、おかしなことに気付いた。
「あれ、蒼くんのメニューとあたしのってなんか違う?」
「ん?ああ、俺のは男用なんだよ、雪野は女の子だからメニューも可愛くなってる」
あー、それでかぁ。通りでなんか違うと思った。
「そうなんだ、凝ってるねぇ。あ、それと蒼くん、メニューにお値段ないの、なんでかな?」
さっかから疑問に持ってることを心持ち小声で聞いてみた。
「ああ、それは女の子用だからだよ」
「え?」
「値段気にしてメニュー選ばないようにね。雪も、今日は俺が出すんだから好きなの頼むように」
そう云われても…やっぱり気になるよ…
「春休みにバイトもしてたんだよ、だから気にしないで。雪の合格祝いだから」
「そんな…だって今の高校だって受験生なのに蒼くんが教えてくれたから受かったんだよ?」
「俺は推薦だったからいいんだよ、それに受かったのは雪が頑張ったからなんだから。ほら、決めないとさっきの人がメニュー聞きに戻ってきちゃうよ」
せかされて、私は再びメニューに目を落とした。
ど、どうしよう〜
「決まらないなら、さっきの御勧めのにする?女の子に人気あるみたいだし」
「う、うん…じゃあ、それにする」
「Ok。じゃあ、俺も同じのにしよっと。食後のドリンクは?」
「えっと…じゃあ、オレンジジュース…」
「くす、オレンジジュースね。」
また笑われちゃった。
でも、私はオレンジジュースが大好きなんだもん。珈琲は苦くて飲めないし。
メニューが決まったところで、丁度さっきのウェイトレスさんが戻ってきた。
「お決まりになられましたか?」
「はい。季節のコース2つと、食後のドリンクはオレンジジュースとアイスコーヒーで」
「かしこまりました。メニューをお下げしますね」
手際よく、メニューを下げて、ウェイトレスさんが戻っていった。
そこでようやく余裕も出来て、周りを見ると、実際お客さんのほとんどが女の子ばっかりだった。
男の人は彼女さんと来ているらしい。
そうだよね、こんな可愛いところ、男の人だけでは来ないよね。
そう考えて思うのは、蒼くんがどうしてここを知っているんだろうってこと。
きっと、誰かと来てるんだろなぁ…
「雪、また考え事?」
「ご、ごめんなさい…」
どうも私は考え込んじゃう癖があるみたいで、いつもこうやって呼び戻される。
悪い癖だよね、直さなきゃ。
しばらく、学校とかの話で盛り上がった。
蒼くんは卒業したばかりだから、知らなかった先生とかの情報をくれて、私はそれをうんうんと聞いていた。
そんな風に会話を楽しんでいたら、前菜の春野菜を使ったサラダが運ばれてきた。
その後、ソラマメのスープとか、焼きたてのパン、サーモンとホウレン草のクリームパスタと、目の前に置かれて行ったそれはどれもとっても美味しかった。
パンはバスケットに入った焼きたてが回ってきて、もちろんお替りも自由。
「本当に美味しい〜」
「よかったね。ここ、友達に教えてもらったんだ」
ご機嫌で、食べていたんだけど、蒼くんのこの一言で、さっき忘れていたことを思い出した。
「お友達…?」
「うん、そいつの彼女もこういうところ好きらしくてさ、連れてったらすっごい喜んでたって聞いたから。聞いててきっと雪も喜ぶだろうなって」
あ、そいつってことは男の人なんだ?なんだ、よかった。
「そうなんだ、連れてきてくれてありがとう」
それを聞いて安心して、私はまた嬉しくなって笑顔だ。
単純かもしれないけど、だってやっぱりほっとしたもん。
焼きたてのパンもすっごく美味しくてお替りしたかったけど、がっついてるって思われたくないし、他のお料理が入りきらなかったら困るから遠慮した。
デザートも来るから、少しあけとかなきゃ。
デザートは、私の大好きな苺のタルトと苺のムース、それにバニラアイスが付いていた。
オレンジジュースもフレッシュで、生絞りだったから余計に最高だった。
盛り付けもとっても可愛くて綺麗で、終始はしゃいじゃった。
ご飯も美味しくて、デザートも美味しくて、お店の雰囲気もよくって、目の前には大好きな蒼くんがいて。
こんなに幸せでいいのかなって思う。
蒼くんがお会計してくれてるから、お店を出たところで待っていることにする。
改めてお店を真正面から見て、やっぱり可愛いなーって思う。
「お待たせ」
蒼くんが出てきた。
「蒼くん、今日は連れてきてくれてありがとう、ごちそうさまでした。」
ぺこんっとお辞儀をして御礼をいう。
「いえいえ。どういたしまして。俺としては、今日可愛くしてきてくれて嬉しかったよ」
「え、ええ…」
「今日、お化粧してる?いつもと違ったからびっくりしたよ」
え、え、そうなんだ、蒼くん気づいてくれてたんだ。嬉しすぎるかも…
多分、今私の顔真っ赤だ。
「お、お母さんが、してくれたの」
「そっか、じゃあ、おばさんに感謝しないとね。こんな可愛い雪も見れたし」
にこって笑う蒼くんの顔が上手く見られない。
照れて俯いちゃった私を、蒼くん行きと同じように手を繋いで車まで連れて行ってくれた。
心の中でお母さんに感謝しながら、すごく幸せな気分でついていく。
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