小さな頃からずっと一緒で、一番近くに居た存在-----幼なじみ。
ずっと一緒に居たから、兄妹という形容が似合う程に仲も良い。
私は彼が好きで、告白してもっと身近にいたいって思うけど、振られたときに今の関係すら壊れるのが恐くて、私は今一歩を踏み出せずにいる。
近くに居られて、可愛がられ、大切にされて。
今の状況が例え妹としての対応でも、私にとっては幸せなの。
それをもっとと願う私と、拒まれることを恐れている私がいる。
「あ、蒼くん」
帰宅途中、あと角を曲がればもうお家という所で私は蒼くんの姿を見つけた。
蒼くんは185センチと身長が高くてそれだけでも目立つ。加えて蒼くんの髪は真っ黒で、さらさらのストレート。女の私は余計に羨ましい。
後ろ姿を見ただけで誰だか分かっちゃうくらい私は蒼くんならどこにいても捜し出せる自信がある。
ついうれしくてぱたぱたと走って後ろから追い掛けると、蒼くんが足を止めて振り替えってくれた。
「やっぱり雪か」
ふわっと、すっごい優しい笑顔で名前を呼ばれて、私の胸はそれだけで鼓動を増してしまう。
蒼くんはこの春から大学生で、近くの国立大学に通っている。
私もこの春に高校に入学して、お互い忙しい日々だったから、中々会えなかった。だからこの偶然が余計にうれしい。
「うん、なんか、雪の制服姿も様になってきたね」
「もう入学して結構経つし、馴染んできたのかも」
他愛もない会話だけど、これだけでも私にとっては最高の幸せ。
蒼くんが歩き出さないことを良いことに、ちゃっかりとその場に立ち止まる。この瞬間が少しでも長くつづくことを願って。
私がこんなことを内心で考えているなんて蒼くんは夢にも思わないだろなぁ。
「雪はもう部活決めたの?うちは結構、内申重視するから部活も勧められたんじゃない?」
蒼くんは今私が通っている川瀬学園のOBだから、学校の内情も入学したての私なんかよりずっと詳しい。
本当は蒼くんと同じ制服を並んで来たかったんだけど、丁度三年の年の差がそうはさせてくれない。
それにしても蒼くんは格好いい。
欲目とかじゃなく、世間の規格からも十分。
銀縁フレームの眼鏡がすっごく良く似合って知的な感じがする。
眼鏡掛けていても素敵だけど、でも、外した蒼くんもいいんだよ。
いつもは蒼くんを少しだけきつく見せてるそのフレームが外れると、ちょっとだけ蒼くんは幼い感じになるの。元々、すっごい優しい顔立ちだから、眼鏡をはずすと余計にそれが強くなっちゃう。
コンタクトもあるらしいんだけど、普段は面倒だからしないんだって。
だから、私が蒼くんの家に行ったりとか、ほんとにプライベートな時くらいしか蒼くんの素顔は見れないんだよ。
裏を返せば、きっと蒼くんの周りの女の人たちも蒼くんの素顔は見たことないだろなって思うからちょっと優越感。
こんなことで優越を感じるなんて情けないけどね…
「ほんとに久々だね、雪。」
蒼くんがにこって笑いながら私を見てる。
「うん、本当にね」
平常心で返しながらも私の心はどくどく云ってる。
な、なんか少し見ない間に蒼くんの免疫低下したのかな?
「雪はこれから予定は?」
「え?あ、もう帰って終わりかな」
「そうなんだ…じゃあ、ご飯でも食べに行こうか?」
「誰と…?」
「いや、俺とだけど…相変わらず雪はボケてるね。くすくす」
いや、だってそんないきなり夢見たいなお申し出あったら誰だってびっくりするよ!
だって好きな人からなんて…蒼くんにはその気はないだろうけど、でもでもっ
「ん、雪、どうする?」
「い、行きたい!」
気付いたら私は思いっきり返事してた。
は、恥ずかしい…
「良かった。今日、親も居ないし美波も友達のトコ行ったから晩ご飯どうしようかと思ってたんだ」
「あ、叔母さんたちいないんだ」
叔母さんは看護婦さんしていて今は主任さんで大変みたい。美波ちゃんは蒼くんの妹さんで私より2つ下の中学2年生なの。
そっか、皆いないんだ…だから誘ってくれたのかな…?ちょっと残念…って、ううん、蒼くんにご飯誘ってもらえただけでも喜ばなきゃ!
「じゃあ、30分後に迎えに行くよ。」
そういって蒼くんは再び歩きだす。
私もあわてて並んで家の前で別れた。
いつもだったら見えなくなるまでこっそり見送るんだけど(と云っても隣)、今日は事情が違うから急いで帰る。
「ただいま〜」
いつもより声が大きくなってる…
「あら、おかえり雪野」
奥からお母さんが顔を出した。
「あのね、お母さん。今日ご飯もう作った?」
「ううん、まだだけどどうしたの?」
「よかった。あのね、蒼くんがご飯食べに連れてってくれるって」
「あらあら」
わたし、そんなにうれしそうな顔してたかな?
なんかお母さんが意味深な笑顔してる…
こういう顔をお母さんがしてるときってろくな事ないのよ…
「よかったわね、雪野」
「うん。だから私のご飯はいらないからね」
それだけ伝えて私は自分の部屋に向かおうとした。
けど、お母さんがそれを止める。
「服着替えたら降りてらっしゃい」
「え?あ、うん」
私は急いでるから適当に返事して二階に上がる。
服どうしよ!
どたばたとクローゼットを開いて物色する。
中々良いものはない。
だってこないだまで中学生だったんだもん。
あーでもないこーでもないって物色して、私の目は真新しいツーピースに行った。
それは、桜色で中はノースリーブの膝丈ワンピに、上からお揃いの上着をを羽織るタイプ。
ちょっと高かったんだけどどうしてもほしくて両親に入学祝いにねだったもの。
ちょっとした余所行きだから、袖を通したのは試着の時と家の中でだけ。
夜だしいいかな?って思って私はそれに決めた。
制服を脱いで袖を通す。真新しい服の匂いと、皺のなさが嬉しい。
中生地のさらっとしたサテン生地が肌に心地よい。
クローゼットの全身鏡前でくるっとターン。
それからカバンと靴。
靴は白のパンプスがあるから良いとして、カバンは…
どうしよ…
考えてもないものはなく、お母さんに聞いてみることにする。
降りてこいって云われてたし、ちょうど良いよね。
残り時間も後20分で、私は急いで下に降りてお母さんのもとにいく。
リビングにいくと、何を思ったのか机のうえにはお化粧セットが。
「お母さん?」
「あ、雪野おそーい」
そう言ってお母さんが私を椅子に座らせる。
「な、何するの?」
「あら、みて分かるでしょ?メイク。お母さん、美容師だけどメイクも出来るのよ。ふふ、娘で遊べるなんて楽しいわ」
「遊ぶって…」
「まあまあ。雪野は髪はパーマあててるからちょっとワックスで整える程度でいいでしょ。ちょっと動かないでね……」
お母さんが手にワックスをつけて私の髪に触れてくる。
いつもながらにお母さんの手は魔法の手だと思う。
私の髪は小さい頃からずうっとお母さんがしてくれてる。お母さんは自分の店も持っていて、まだまだ現役。今日はたまたま月曜で美容室が休みだったから良かった。
中学までは校則きつかったから癖っ毛も、どうにもできなくて苦労させられたけど、高校になって校則がゆるくなったからお母さんにパーマ当ててもらった。
普通のお母さんなら反対するかもしれないけど、お母さんは美容師で、そういう女心は理解あるから。
髪はもともと色素的に色は薄いから、カラーはそのまんま。
「よし、いいわよ。どう?」
お母さんの見せてくれた鏡のなかの私の頭は、ワックスで整えられてて、さっきより綺麗。
「うん、ありがとう」
そのままお母さんは化粧品に手を伸ばす。
「ふふ、やっぱり娘っていいわねぇ」
軽く水気を含んだスポンジみたいなので肌を拭かれて、化粧水、下地と付けられる。
たまにお母さんの遊びに付き合うからこういうことされるのは慣れていたりする。
「雪野の肌はきめ細かくて綺麗よね」
「うーん、そうかなぁ…」
パウダーにファンデーション。
しゃべりながらでもお母さんの手の動きは神業。
「雪野も高校生になったしマスカラと口紅くらいは今度買いにいこうね」
ピンクのアイシャドウにくっきりとアイライン、ビューラーで睫毛をあげられたあとにはマスカラにチーク、仕上げに薄いピンクのリップ。
自信ありげに見せられたお母さんの鏡の中の私はいつもより幾分大人っぽかった。
「さ、出来たわよ。雪野はまだ若いからナチュラルメークにしといたからね」
お母さんはそういうけど、された本人からみれば全然違う。
本当に私?って自問自答しちゃうくらい違って見えるよ。
「ありがと…」
「夜だからね、多少はお化粧しとかないと」
そういうもなかなぁ、と、考えていると、チャイムがなった。
あ、もう30分経っちゃったんだ。
あわててお母さんにカバンを貸してほしいと云うと、心得ていたといわんばかりにすぐ出てきた。
急いで中にお財布、携帯、ハンカチ、それからファンデーションとリップのパクトを忍ばせる。
よし。
「じゃあ、お母さんいってくるね」
「はいはい、蒼斗くんによろしくね」
お母さんは片付けをしながらひらひらと手だけを向ける。
お気に入りのパンプスを履いて、スカートを軽く払って一呼吸。
私は大好きな人のいるであろう扉を開いた。
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